第3回:おしえて!マイルスト〜ン「ホワット・イズ・ナッティ?」(前編)

2023/03/25 UP | POSTED BY milestone

第3回:おしえて!マイルスト~ン「ホワット・イズ・ナッティ?」

「おしえて!マイルスト~ン」は、milestoneのアイテムを作ってきた人(ファウンダー西岡)と使ってきた人(中途入社した吉田)の二人の話を(#水曜ぶどう坂練で一緒に走っている萩原が)聴いて、深堀りしていく連載です。

いよいよ今回は、ランニングショーツ「Natty Shorts(ナッティショーツ)」の開発秘話です。必要は発明の母といいますが…。

 

きっかけは失敗

 

西岡(以下N):もともとアパレルは好きで。帽子から、Tシャツ、靴下も作ったから、じゃあもうパンツやりたいなと思ってた。せっかくなら、milestoneで揃えられるコーディネート、色合わせの楽しみ方や着こなしを提案したいなとは思っていたかな。

萩原(以下H):前回帽子の話してる時に、アパレルやるつもりなかったと言われてたような。

N:きっかけがあって。土井さん※1が走った大峯奥駆道※2のFKT(Fastest Known Timeの略:知り得る中での最速タイム)20時間切りチャレンジの時かな。土井さんのサポート兼カメラマンとして行って。

※1 またまた登場、土井 陵選手。日本を代表するトレイルランナー。

※2 熊野古道の一つで修験道の修行の道。金峯山寺から熊野本宮大社まで約100㎞。

吉田(以下Y):コロナの影響でトレイルランニングレースの開催が少なくなっていた2021年でしたよね。「Breaking_20」の話はブログ(ブログはコチラから)にも上がってましたよね。

N:そうそう。その時に穿いてたランニングショーツは、生地にストレッチ性もあって、普段走る時にも、気に入ってよく穿いてたんやけど、ポケットが少し浅かったんよ…

H:ふむふむ、いやな予感(笑)

N:終盤の玉置神社でサポートした後、最後の熊野川を渡るゴールのところへ19時間40分くらいで来て、石だらけの河原で一眼レフと携帯の2本立てで撮ってたんよ。土井さんも時間を気にしながら進んでたし。途中で「あ、携帯がない!」って気づいたんやけど、ゴールシーンは絶対撮らないといけないから、携帯のことは気になりながらも「ちょっと待って、ないわ」って今言うわけにいかないし。

Y:そこでは言えないですね(笑)

N:土井さんには気持ちよくゴールしてもらいたいし。岐阜県から土井さんの仲間の福井哲也さんと、玉置神社から中江教夫くんがペーサーしてたから、3人でゴールして。土井さんが寝転んで、みんなと握手を交わして、ってシーンをパシャパシャ撮って。

 

Y:その絵が撮りたかったんですもんね。

N:雰囲気も落ち着いて来た頃に、四人一緒にタイマーで記念写真を撮った後で…

「ちょっと申し訳ないけど、実はわたくし携帯を落としました」って告白して。最後の鳥居のところで、やばいと気づいたから、場所は間違いなく河原からゴールまでの200mの間で。ただ、携帯カバーの色が、グレー掛かった緑色で河原の石の色と同化してるわけ。基本的に携帯はマナーモードにしてるから、誰が何回電話してもうんともすんとも言わへん。

H:これはやばいですね。

N:土井さんに「100キロ走った後で悪いけど、一緒に探して」って。もう暗くなってきてるわけ。自分の中ではある程度は覚悟してて、最悪みんなを見送ってから、車で泊まって次の日ゆっくり落ち着いて探さなあかんわと思ってて。ヘッドランプもあったけど、暗い中探すのは大変やし、メンタルやられるし。

Y:泊まり込み覚悟ですね。

N:ほなみんなで探しましょう言うてくれて、しばらく探しても案の定すぐには見つからへんかったんやけど。福井さんが「僕こういうの見つけるの得意なんですよね」言うた後、ものの三分くらいで「ありました!」て見つけてくれて。みんな「おおー」いうて。で、無事に帰れたんやけど。

Y・H:良かったー(笑)

N:その時に、ビッグチャレンジとか大イベントの時に、携帯落とすって、もってのほかやなと。携帯を落とさない深めのポケットのパンツの必要に駆られたわけ。

 

H:なるほど。ヨッシー(吉田)は、山で携帯落としたことある?

Y:僕はないかな(笑)。ナッティを穿き出すまで、いつも穿いてたショーツは、ランニングに特化してるわけではないですけど、携帯専用の部屋(ポケット)が一個ここですというのがあったから、常にそこに入れておくということをしてました。確かに、その西岡さんが穿いてたショーツを穿いたことあるのでわかりますけど、前ポケットの2つしかなくて、しかもポケットが浅いんですよね。ファスナーは付いてるけど、狭いんです。

N:写真をよく撮るから、携帯の出し入れが多くて。チャンスがあればすぐ撮りたいし。一眼レフじゃ間に合わへん時もあったりして。落とした時はファスナーが充分に閉まってなかったかもしれへん。

Y:走ってる時に前ポケットに携帯を入れると暴れるんですよね。突っ張るし。

H:太ももに当たるよね。

Y:邪魔になるし、体の後ろ側にないと揺れます。西岡さんから「ランニングに特化したもの」っていうのが、最初に聞いたコンセプトでした。それは前ポケットがなくて、丈が短いってところに現れてます。ファスパ(ファストパッキングの略、走れるくらいの超軽量装備でより遠くまで移動する登山スタイル)するときには、前ポケットがあると便利だけど、はっきりと「これはランニングショーツでいきたい」から「前ポケットはいらん」と。ポケットは後ろに三つあれば充分で、足上げを重視したいから丈短め、とはっきりした意思があったかな。もちろん、携帯が落ちにくくて、入れやすいっていうのもポイントで。

N:前ポケットは最初から考えてなくて。トレランじゃなくても、デイリーのロードランの時、携帯と財布と鍵は持つから、最低でもそれが入れば。

Y:真ん中のポケットは深くするために袋布の端を浮かせてます。フラシっていうんですけど、最初のサンプル段階ではフラしてなかったんですよ。袋布になってなくて、生地の切り替えの部分だけで、横の二つと同じ深さで。

N:もちろんそっちの方が安いし、フラすと手間もかかる。ぶどう坂を走りならが言ってくれた「ウインドシェル入るようにしたらええんちゃう?」って声を採用させてもらった。よく脱ぎ着するウインドシェルを収納できる大きいポケットがあるのは特長になるなって。

H:これだけの大きいサイズのポケットは他ではないかも。

N:ないし、他のメーカーさんのポケットは大体外やねん。びよーんと伸びるゴムのメッシュだったりして、補給ジェルとか見えるし。見た目もスタイリッシュでありたいなと。ランニングショーツやけど、海でも行けるくらいの感覚で穿いてほしくて。ザ・ランニングショーツという見た目じゃないように、ポケットは内側にしたかったというのがあったかな。それも特長の一つになったし。

*ナッティーショーツを裏返した図

 

H:もし、この真ん中の大ポケットが外に出てたら、めっちゃ存在感あるけど、内側だから違和感ないです。

N:縫製工場泣かせやったよ、これは。工場を見に行ったけど、縫製の工程はめちゃくちゃ複雑で。

Y:これはややこしいと思いますよ。あんまし日産が上がらないと思います。

Y:コンシールファスナーもつけてますからね。

N:これね。普通のファスナーやと見えるんよ。ムシが。

H:虫?

N:務歯(むし:嚙み合わせの部分)。ようこそアパレルの世界へ(笑)サイドのファスナーは見えずにすっきりしてるやん。こういう細かいとこもこだわったかな。

Y:ファスナーの引き手も、走りながら上げ下ろしするからといっても、でかい引き手は嫌で。でも小さいとグローブしてたら難しいし、先っぽに滑り止めのゴムつけてもらってます。その辺も細かく指示しましたね。

H:確かに!サイドと真ん中の引き手が違う。

N:この横型の携帯用のポケットはめちゃくちゃ気に入ってて。どのメーカーの携帯も入るようにしたかったし、ごつめのスマホケースでも入るかは確認した。ここはほんまに揺れへん。走ってても気にならないから、この位置にしたのはほんまに良かったなと思う。写真撮る時も出し入れもしやすくて。

 

パターンという沼

 

N:作るにあたってまずは、世の中にはどういうランニングショーツが出てるのか、自分なりにリサーチアンドディベロップメントしたわけ。

Y:R&D(研究開発)ですね(笑)

N:国内海外メーカー含めて自分なりに良いなというものを買ってみて。何を作るにしても、こんな感じのものを作りたいっていう他社製品のものをひとつ目標を設定するかな。それを真似するわけでは全然なくて、ここに向かって進んでいこうという指針になるもので。そうしておくことで、途中で迷った時にこれに向かってたよなって戻れるし。最終形も全然違うんやけど、あくまでイメージとして。それは全てにおいてあるかもしれん。

Y:がちゃがちゃになりますからね。全くゼロからあっちゃこっちゃいくと。パターンにはめっちゃこだわったんですよ。知り合いのパタンナー(Jさん)に来てもらって。僕はアパレルで企画はやってたけど、パタンナーはやってないので。

Y:例えば前がもっこりするのをパターン上でどう修正したらよいかわからないし、自分と西岡さんと交代で穿いて、ここのつっぱりが気になるとか、何回も言って何回も修正してもらってたし、なんなら途中から、サンプルを縫って何ミリつまんでとかもやってくれてました。

H:こうしたいって希望を、二次元の型紙にどう落とすかってとこですよね。

N:Jさんに今では一から入ってもらってるけど、ナッティショーツの時は縫製工場のパタンナーさんがある程度作ってきてくれて、それに対してこうしたいって希望を伝えてたから、ある程度お任せで。ぶどう坂ではほんまによく意見もらってた。みんな各社のショーツを色々穿いてたから、横に並んで写真撮らせてもらって、比較対象として形やシルエットを見させてもらった。

Y:やってましたよね。

N:実はこれでいこうと思ってた生地があって。ちょうど暑い8月やったかな。すごい汗かきの吉田くんっていう人がいるんやけど。その彼が穿いて走ってテストしたら、汗でびっしょびしょになって。裾から汗がぽたぽたしたたるくらい。

Y:(苦笑)

N:この生地の色が良くて、それで行きたかったんやけど、急遽ストップして。うちのブランドはユニセックスっていうことでやってるから、女性にも穿いてもらいたいし、

レディース用を作れるキャパというか体制も整ってないし。女性はコレ穿いたら嫌やろな、男性も女性のそういう姿を見たくないやろし良くないなと思って。生地選びから振り出しに戻ったけど、量産前やったし、全然変えて良かったと思う。

Y:撥水機能もあるし、生地が良いって言ってくれる人も結構いますもんね。

N:真夏にテストできてよかった。あのテストやってなかったら、ぞっとする。ナイロン100%とポリ100%の違いで。ポリ100%が良かった。服は好きやけどさ、正直、ポリエステル、ポリウレタン、スパンデックスとか素材のことわからへんやん。名前は聞いたことあっても、洗濯表示くらいしか見いへん。生地についても勉強したし、基礎的なことだけで深い話はわからへんけど。でも、そういうのも知れて良かったし、今後生きてくるし。

Y:絶対そうですね。ひと昔前のアパレルの常識やったら、ナイロンが高級でポリエステルの方が安いイメージありましたけど、同じような合繊で。ポリエステルの地位が上がってるんちゃうかなって、機能を加えられたりするので。ナッティのポリエステルめっちゃいいです。ストレッチも入っているし。

N:ストレッチ性もあるし、肉厚でペラペラじゃないし。海外のお客さんは結構ペラペラ好きかも、向こうのブランド見てると。うちの方がだいぶしっかりしてる。

Y:ペラペラだと貼り付きますからね。汗かくと。

H:汗のスぺシャリストが言うと重みがあるわ(笑)

N:インナーも付けようかどうか悩んで。好みがあるから。せっかく良かれと思ってインナー付けても、結局切られても嫌やし。それやったらシンプルにして、インナーはお客様に選んで穿いてもらったら良いかなと思って。その分頑張った価格で出来たかな。ロットも大手メーカーさんとは桁が1つ2つ違うから。ヘッドランプの明るさ、時間、価格と一緒で、ナッティもデザインと機能と価格のバランスが良かったんじゃないかなと自分なりには評価してるんやけど。

Y:いつも西岡さんが値段の交渉の時に、ちゃんと売れる値段で売りたいっていうてはって、つまりは安くしてほしいっていうてるんやけど(笑)安く売りたいわけではない。アイテムに対して、これくらい払うよねっていう価格をとらえていきたい。めちゃくちゃ良いもんやから、めちゃくちゃ高いねん、では市場にも受け入れられづらいから、そのものの価格帯として、納得感のある価格に抑えたい、とは常に言うてはる。

N:その為には、他社がいくらで売ってるか、他社の性能がどうか、それで他社にない機能を盛り込むとか、勉強しとかんと失敗するから。でもうちは安売りするわけではなくて、良いものを良い値段で売りたいなって思う。常にお客さん目線で考えてるから、この商品ええねんけど、高いわってなるのが残念やし。これええわ、この値段なら、よし、買えるわ、ってパン、パン、て決まるようなテンションでいきたいなと思う。

Y:ファッションのブランドやったら、ものの値段というよりは、ブランドの価値みたいなのもありますけど、ファッションじゃないし。アウトドアブランドやから、使ってっもらってなんぼやから。

H:ここぞという時だけしか着ないおしゃれ着じゃ、もったいないですよね。

Y:おしゃれに使ってもらって良いんですけど(笑)、基本的には使ってもらってなんぼ。

N:手に取ってもらいたいね。

Y:中に入って思うのは、マイクロブランドやから、大きいブランドがやってることと全く同じことやっても、意味がないなって。大きいブランドが数をぼーんと作って安く作ってくれたらそれでいいし。それをうちがちょっと高い値段でやる意味がないなって。最終的に出来上がるものは、大手や他がやってないエッセンスが何かしらないとあかんなと思ってます。肝に銘じとかなって。

N:やっぱり、オリジナリティを常に持っておきたい。それが生き残っていく術やと思う。人の真似してても淘汰されるし、値段で比べられるし。じゃなくてうちのスタンス、考えでやってますと。もちろんどこも、今あるブランドはそういう考えを持ってやってはると思うけど、自分らも会社の規模は全然小さいけど、精神的には一緒のマインドでやってるつもりで。それは大事やと思うし。

 

Mの基準

 

N:もともとS・M・Lの3サイズ展開で、ユニセックスで女性のユーザーもお陰様で増えてきてて、XLよりはXS作った方がええわと思って、もうワンサイズXSを追加した。他のサイズと比べたら、XSは数は出ないけど、そのサイズ感のお客さんも大事やしカバーしていきたいと思う。女性が着てくれてたら、それを男性は見てると思うから。逆はそうでもないかもやけど。

Y:ハギさんは見てますよね(笑)

N:サイズ感はすごい大事で、結構むずかしい。マイルストーンのMサイズと他社メーカーのMは全然違うと思うし。一応、自分がMだと思って、M基準で作ってるんやけど。

Y:ナッティショーツとオニオンフィーディで、サイズは何が良いですかね?ってよく訊かれるんですけど。わかりやすくテンプレートでいつも答えてるのは、身長何センチ、体重何キロていうてくれたら、一般的には、MとかSとかこれですって答えてます。ただ、スタッフの身長体重でいくと、174cm68kgの普通体型の男性(西岡)でMサイズを着ていますが、173cm70kgのがっしり体型の男性(吉田)はLサイズです。数字は似てるけど、体型や好みによっても選ぶサイズは違うから、できたらお店で試着してもらうのがいちばん有難いですって返してます。

H:ほんま数字だけ聴いたら全然変わらない。

Y:脚の太さ、お尻まわりとかにもよるし、二人並んで写真に撮ってみると全く別ものに見えるんですけど、数字だけだと似てるから。

N:ある程度は、Mの人は他のアイテムもM、ってしていきたいとは思ってるんやけどね。

後編へつづく

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