第1回:おしえて!マイルスト〜ン「milestoneはヘッドランプメーカーです。」(前編)
2023/01/24 UP | POSTED BY milestone
今年からはじまりました、この企画。『おしえて!マイルスト〜ン』
ブランドファウンダー西岡と中途入社した吉田の二人がmilestoneの製品について深堀りし、紹介していく連載企画です。
そういうお前は誰って?初めまして、わたくし『#水曜ぶどう坂練』で二人と一緒に汗を流している、萩原 健と申します。今後、おつき合い宜しくお願い致します。
左から:吉田氏、西岡氏、萩原氏
さて、初回はヘッドランプについて深掘っていきます。ではさっそく、はじまりはじまり。
ライトじゃなくてランプ?
吉田(以下Y):間違ってたらすいません。今、ヘッドライトじゃなくて、「ヘッドランプ」って言われた気がしたんですけど。
西岡(以下N):良いところに気付いたね。そう。milestoneはヘッドランプメーカーです。
Y:え?ライトじゃなくて?
N:御存知の通り、うち(冨士灯器(株))は釣具メーカーで、ZEXUS(https://zexus.com/)というライト専門の別ブランドがあって。milestoneを立ち上げる時に、棲み分けが欲しいなと思って。ZEXUSは白色のLEDを使って、“ヘッドライト”という形で明るさ追及型で。同じことをしても面白くないし、アウトドア業界の中でも、他社さんも白色LEDでやってるし、後発メーカーとしてうちが何かやるなら違うものを打ち出した方が良いなと思って。「電球色めっちゃいいやん」というのがあったから。
Y:そもそも、なんで電球色なんですか?
N:元々うちはカーバイトランプを作ってきた歴史(https://fujitoki.co.jp/company/)があって。
ランプのオレンジ色の柔らかい光は魅力的やから。ランタンとかだいたい電球色のあったかい光やし、食べ物も美味しく見えるし。肉の焼き加減だけはわかりにくいんやけど(笑)
Y:(苦笑)
N:自社の棲み分けと他社との差別化というところから、みんな“ヘッドライト”と言うと「白」っていうイメージやけど、それを“ヘッドランプ”と言っていった方が良いと思って、自分の中で線引きをしている。ヘッドライトというと車のライトをイメージしがちやし。
社内的にもライトとランプで2つのブランドがあって、かといって他の社員にも言うてるかと言うたら、言うてないんやけど。
Y:言うてないんかい(笑)
N:実は、電球色でいくのは、最後の最後までフィールドテストしたけど、めちゃくちゃ不安やった。ZEXUSは2008年からやってて、市場も白で。2014年にmilestoneを始める時に、工場に「クールホワイト(白色)」じゃなくて「ウォームホワイト(暖色)」で発注する瞬間。ほんまに電球色でやって大丈夫かなって(笑)。でも「milestone=電球色」っていう位置づけも出来たし、やって良かったかなと思う。
Y:そうだったんですね。山で電球色は必要ですよね。
N:そやねん。山でガスった時に重宝するというのを、山とスキーで有名なショップの大ベテランの方が、電球色のヘッドランプに助けられたと言うてくれて。あんな凄い人がフィールドで使って実証済みなんや、と。一緒に同行してた人は白色のライトやったんやけど、電球色の「アレなかったら危なかった」って。それも自信につながって。
Y:トンネルの中もオレンジ色ですよね?電球色は立体感っていうか、陰影がはっきり出る?
N:そう。霧が出た時に、光の透過性に長けている。陰影がくっきり出るし、足元もはっきりすれば、リスク回避になるだろうし。
電球色のデメリット
N:実はデメリットもあって。隠すことでもないし、知っておいてもらった方がええし。なんで他社がやらないかというと、電球色の方が電池の消耗が少しだけ早いんよ。省エネで明るさを継続したいから白色でいきたいし、電池食うからみんなやりたがらない。しかも、人の目には、白色の方が明るく感じる。同じ200ルーメンでも白色の200ルーメンと電球色200ルーメンなら人の裸眼には、白色の方が20%明るく感じるというデータも出てる。だからみんな白色にする。けど、うちはそこを犠牲にしてでも差別化を図ろうと思ったわけ。特長を持たせたかったから。
Y:でも、自分の周りで普段一緒に走ってるようなトレイルランナーが、最初にライトを買う時、何を基準に選ぶかっていうと、ルーメン、時間、値段、この三つの数字しか見てない気がしてます。
N:そうやと思う。しかも、ギアの中でもライトの優先順位は低いからね。まず靴、ザック。ライトは最後の方で、一度買うとライトはなかなか壊れない。靴はすり減るけど、ライトは減らない。
Y:靴は何足も駄目にして捨ててるけど、10年前に登山を始めたときに買ったライトもまだ壊れてないです。けど、そこそこロングレースの経験を積んでくると、重量とフィット感が気になってきます。どちらも小さな積み重ねが、レースの後半にじわじわ効いてくるので。
N:さすが100マイラー、わかってるね(笑)
Y:バッテリーの持ちでいうと、時計の世界ではCOROSがいきなり全然違う次元に行きましたけど、ライトでも長く持たせる方法はあるんですか?
N:やり方はいろいろあって。例えば、コンビニの中で写真を撮ったら暗くなってたりすることがあるけど、それはLEDが高速点滅してて。目にはずっと光ってるように見えてるけど、実は消えてる瞬間がある。うちのMS-i1にも取り入れている。ちょっとでも長く持たせたいから。特にディミング※1して明るさを絞った時には高速で点滅している。人間の目で認識できない速さで。そういうやり方もあるし、長く持たせるためのギミックは各社工夫して色々やってる。ほんま面白い。
※1 ディミング:明るさ無段階調整機能
Y:深いですね。
N:ほんまライトは奥深いよ。積分球※2っていうライトを測定する機器があるんやけど、時間、明るさ、色温度を検査できる。このメーカーは背伸びしてスペック書いてるな、過大評価してるなとかもわかるし。逆に真摯に控えめに書いてるなとか。それを感じたのはBLACK DIAMOND。8時間光るように設計しているわけ。時間ありきでここにどう着地させるかという設計をヘッドライトもランタンもしてる。見事に8時間きっちりでスコンと落ちる。そうやって時間に重きを置くと、低空飛行で光らせないといけないけど。各メーカーどのくらいの照射時間をどの明るさで、そのどこに重きをおくかは腕の見せ所。うちに積分球を導入して測れるようになって気づいた。
※2 積分球:内壁に高反射率を塗布した白色拡散反射面で構成された球。球内で光源の全光束や、光を多重反射させて測光を行う。
Y:そうなんですね。
N:明るさや時間は、ANSI(American National Standards Instituteの略称)の規格に則っている。明るさを測るときには、電池満タン100%の状態でスイッチを入れて、30秒後にストップウォッチを押す。そして電池が10%になったところでストップウォッチを止める。これがランタイム。これはBLAK DIAMONDもPETZLもLEDLENSERも世界で勝負するために公表している。そういうマニアックな話もある。
Y:知りませんでした。
N:まだ入って二ヵ月やから大丈夫(笑)
フラッグシップモデル・「MS-F1:トレイルマスター」の誕生
N:本気でトレラン用のヘッドランプを作りたいなら、と土井さん※3を紹介してもらって、一緒に一から作ったのがトレイルマスター。土井さんの要望をリストアップして、できることできないことを検討して。土井さん曰く「100マイルレースを走っている時は不安や余計なことを考えたくない」と究極のストレスフリーを目指した。まずはフィット感。スピード出したら飛んだり跳ねたりもするけども、揺れや不快感のない、バチっとはまるものを作りたいと。今から考えたら既存のワイヤーシステムにしても良かったかなと思うけど(笑)、せっかくなら自社で、と思ってどうワイヤーを締めるかの機構まで作って。特許も取って、それくらいこだわって。
※3 土井 陵選手。皆様ご存知、日本を代表するトレイルランナー。
Y:クイックダイヤルシステムですね。
N:そう。スイッチは今世の中に出てるヘッドライトは大体ボタン一個だけど、何回も押してわからなくなってもあかんから、上は電球色と白色との切り替えボタン、横は明るさの切り替えが感触でわかるレバーにして。マイルストーンとしては電球色推しやけど、ずっとガスってるわけではないし、電球色と白色を切り替えできるようにして。
明るさについては、土井さんから同じ明るさをキープさせたいという要望があって。3段階のハイで300ルーメン5.5時間。世間一般なら、え?300ルーメンで5.5時間しか持たないの?みたいな感じかもやけど、ミドルの160ルーメンでも9時間しかもたなくて。今なら200ルーメンなかったらヘッドランプとして成立してないでしょ?みたいな世の中になってるけど。でも今、世に出ているライトの95%が時間と共に暗くなっていく設計になっているけど、土井さんは明るさをキープしたいと。なぜなら、超長距離を走る上で必要なバッテリー量をわかっておきたいから、自分でコントロールしたいと。それでパッケージに表記しているランタイムになってる。明るくしたら横軸の時間は短くなるし、暗くしたら長くなる。これは絶対切り離されへんから。
Y:初めて雑誌で見た時、革命的なヘッドランプが出た!けど価格も革命的やわ(笑)という感覚でした、正直。ヘッドライトに17,500円(税抜)は出されへん、それやったらシューズ買うわ、てなりました、最初は。
出典:RUN+TRAIL
N:そうやと思う。だから、せっかく良いもん作ったから、みんなに感じてもらいたいと思って、土井さんと良さを伝えに全国行脚のロードトリップして。考案した人間と作った人間が一緒にまわって、こんな時にこう使うって見てもらえば、納得してくれるやろうと。実際、手ごたえあったし。
Y:トレイルマスターは使いやすさが際立ってると思います。さらに、コシヒカリ(Trailmaster+RUSH Light)※4を合わせると、もう最強だと思ってます。バッテリーも共用できるし、明るさをいちばん暗いローにしても、頭と腰で二つ合わせると下り以外では充分明るいです。
※4 Trailmaster+RUSH Lightは廃番。現行モデルはMS-i1+RUSH Lightです。「コシヒカリ」は非公式な愛称。
N:でも、2018年8月5日に発売してから4年半経って、実は2023年はもう生産終了モデルになっている。なぜなら、バッテリーを供給してくれてた工場が作れなくなって、すごく残念やし、うちのフラッグシップモデルではあったんやったけど、次に行かないといけないなと。トレイルマスターで学習した、点灯時間が短いから、もっと長く持ったらいいのに。ちょっと高かったから、出来るだけコストを抑えたい。で、作れたのが「MS-i1 エンデュランスモデル」。だから今まで欲しかった人、買いたかった人には11,800円(税抜)1000ルーメンは、そういう意味では良かったのかな。
<後編>へつづく