第11回:おしえて!マイルスト〜ン「その先を照らすもの」
2023/11/25 UP | POSTED BY milestone
この連載は、milestoneのアイテムを作ってきた人(ファウンダー西岡)と使ってきた人(中途入社の吉田)の二人の話を(#水曜ぶどう坂練で一緒に走っている萩原が)聴いて、深堀りしていく企画です。
・満を持して登場
萩原(以下、萩):ここのところ、毎月のように新商品が出てますよね。
西岡(以下、西):出すよね~(笑)
萩:しかも、幾つも。その中から今回取り上げるのは?
吉田(以下、吉):ハンディライトです。
西:作ろうと思った経緯やけど、みなさんヘッドランプ『MS-i1』使ってくれてますよね。そのバッテリー『MS-LB3』が優秀で。ヘッドランプだけに使うのはもったいないから、これを活かしてハンディライトを作りたいというのは、実は『MS-i1』の開発中から考えてて。
あのアルミ素材のバッテリーケースはハンディライトにもよく使われている素材やから、兄弟モデルとして出せるなと。そこからようやく念願の製品化です。だからバッテリーが良かったから作ったっていうのがあるかな。
萩原(以下、萩):良かったというのはバッテリーの性能ですか?
西:3,400mAの容量があって、スマホのモバイルバッテリーとしても使える。コンパクトなハンディライトのサイズにもぴったり。乾電池を使うライトも世の中にあるけど、明るく長く時間を持たせるとなるとやっぱりリチウムバッテリーで。
西:アルファベットの「i」の次は「J」なので、商品名は『MS-J1』です。10番目のプロダクトになります。
吉:アルファベットの順の話は「おし!マイ」第7回のGシリーズの時に話しましたよね。
西:ライトって大きく分けると、三つくらい種類があって。ヘッドランプ、ランタン、そしてハンディライト。milestoneの初期にはランタンも出していて、今はもう生産終了して廃番になっています。ハンディライトは今までやりたかったけど、なかなかこれっていうものに辿り着いてなくて、それはLEDのスペックやバッテリーだったりで。自分としては満を持してというか、ようやくライトメーカーとしてハンディライトというジャンルに漕ぎ着けたって気持ちがあるかな。
吉:今回はハンディ「ライト」で、「ランプ」ではないんですよね。
西:そう、白色のLEDを使用しています。『MS-i1』と同じように白色と電球色の両方入れたかったんやけど、いかんせんコンパクトゆえにスペースが限られているので、LEDを2発入れることができず、スペック的に明るさと時間の持ちを優先して白色LEDになってます。
明るさは1000ルーメンで、ハイのモードで7時間持つんですけど、ヘッドランプと同様のエンデュランスモードっていう機能が付いてます。要は二分間の間に人間の目には気付かないくらいじわじわ明るさを200ルーメンまでドロップさせる回路設計に、あえてしています。長く持たせてなるべくバッテリー交換をせずに一晩使うために。もし、1000ルーメンでずっと同じ明るさを維持すると、電池の消耗が激しくておそらく1時間も持たないです。熱の問題があって火傷の危険やLED自体に負荷も掛かるし、LEDは切れないけどショートする可能性も出てきます。
吉:1000ルーメンは確かに熱くなりますね。寒い時にちょっとした暖が取れるくらい(笑)
西岡:1000ルーメンでずっと照らし続けるというのは、ガソリンタンクに大きな穴が空いてるようなものなわけ。ダーっと漏れっぱなしだと運転できる時間は短くなるから、それをいかに小さい穴にして目的地まで行けるかっていう話。穴がおっきいと東京に辿り着かへんし、名古屋も行かれへん。滋賀まで行けるかどうか(笑)
吉:針インターくらいですかね(笑)*針インター:大阪から約60km離れた高速道路のインターチェンジ
西:例えばそういうこと。容量は決まってるからね。
吉:エネルギーをいかに効率よく使うかですね。ミドルは270ルーメンで10時間。二割ということは54ルーメン。ローの71ルーメンだと53時間。二割だと15ルーメンくらいですよね。
萩:15ルーメンの明るさってどのくらいですか?
吉:ちょっと見て来ます。(暗い部屋から戻ってきて)15ルーメンでも床に落としたコンタクトレンズがじゅうぶん探せそうですよ。(笑)
萩:スイッチのところが光ってますね。
西:これが電池残量インジケーターになってます。電池残量が100から80%だと緑色に光ります。80から20%までが黄色。20%以下になると赤色になります。残量がひと目分かるように。
吉:『MS-i1』には無かった機能ですね。
西:バッテリーの本体は充電中は赤、充電完了すると緑。充電してない時も残量がある時はうっすら緑に光ってます。
萩:そうそう、置いてるだけでも光ってますよね。もったいないなと思ってたんですけど。
西:自然放電を使って点灯してるだけで、無駄にバッテリーを消費してるという訳ではないです。
萩:逆に有効活用してるんですね。(笑)
西:落下防止の為の手首に通してキュッとするストラップが唯一の付属品です。つまり、バッテリーが付いてないんです。理由としてはヘッドランプMS-i1を使ってくれてる人は、だいたい予備バッテリーを持ってくれてるから。トレイルのロングレースでは予備バッテリーが必携装備品だったりもするし。バッテリー込みで価格が1万円超えちゃうと、ハードル高いなっていうのもあって、まずはお手元のバッテリーを入れて使えますよってことで定価を抑えてます。
吉:パッケージにも「!」マーク入れて「バッテリーが付属されてません。ご注意ください」と表記してます。
西:実は、プロトタイプの段階では、ディミング機能(明るさ無段階調整機能)がついてて。
西:ディミングもええねんけど、連続点灯時間が読みにくいってところがあって。最小にした時と最大の明るさの持ち時間しかわからなくて。今の明るさで何時間持つのかがわからない。ハイ・ミドル・ローの設定がある方が、持ち時間はわかりやすいよね。
吉:名前も最初は「エンデュランス・ハンディ」でした。
西:『MS-i1』にも「エンディランスモデル」ってサブタイトルが付いてるから、そのハンディタイプっていうつもりで、プロトタイプには名前も刻んでたんやけど。変えたのには理由があって。
・本気のフィールドテスト
吉:今年の夏、北アルプスの穂高岳へ西岡さんと2人で行ったんですよね。いろんな製品のフィールドテストを兼ねて。
西:7月の中旬かな。既に世の中に出ている商品も、まだこれからのものも含めて色々試したね。その中の一つに『MS-J1』もあって。ほぼこれで行こうと出来上がっていたんやけどね。涸沢のテン場に泊まって、朝3時に奥穂高に向けて出発して。
萩:まだ夜中ですね。
吉:最初からけっこう岩場なんです。西岡さんはハンディライトを試したいと言うけど、手を使って登るから危ないので一回ポケットにしまっといてくださいと言うてたんですよ。そしたら、暗いからロストしてしまって。岩場に丸印のマーカーってありますやん、あの道標を見失って危なっかしいとこ行ってしまったんですよ。ホンマにここ行くん?みたいな。
西:結構テンパってて。真っ暗な中で迷うと不安になってくるし、タイトなスケジュールで目的地に時間通り着きたかったから、大丈夫?大丈夫?って言いながら。
吉:スマホの地図にGPXのルートを落とし込んでたから、そんなに大きく外してないはずなんですけど、絶対ここ正規ルートじゃないよねってところを進んでて。どうしよう?って時に西岡さんがハンディライトを出してくれて。これで光を遠くまで飛ばせるから見るわって、それで矢印を見つけてくれてルートに復帰できたんですよ。
西:広角のヘッドランプに比べるとスポット照射のハンディは、光をぐっと絞って遠くまで照らせるビーム感がめっちゃ良かった。これはホンマに道を探すための、ルート見つけるためのギアやなってマジで体感したから「ルート・ファインダー」って名前にするわって、その時ヨッシーに言うて。電波が届くところまで下りてきたら、工場へ電話して「悪いけど名前変えるわ」って。なんやっけ?アレ。
吉:ちゃぶ台返しね(笑)北アルプスでも。
西:またひっくり返しちゃって(笑)。まだサンプルで止まってたから良かったけど、自分で実際に状況を経験しないと出て来なかった商品名やったと思う。
吉:けっこう過酷なシチュエーションやったんですよ。西岡さんには北アルプスの良い景色を見せてあげたくて北穂と奥穂と前穂へ行ったんですけど、ずっとガスってて。上高地まで下りたら晴れてたけど、上は雲に覆われてて、なかなかハードでした。
西:滑落してレスキューを電話で呼んではる人ともすれ違ったし。これ滑ったら死ぬかもって、登山歴は浅い方やけど、今まででいちばん過酷でヤバい山行やったわ。
吉:前穂は特にでしたね。
西:岩場が全部濡れてて、爆風で。
吉:雨は降ってないんですけど、雲の中で水蒸気が吹き付けてるような状態で。
萩:岩場でそれはだいぶ神経使いますね。
吉:下から上がってきた家族連れに、上の方はホンマに危ないですよって言いましたもん。
西:それくらい過酷な日にフィールドテストできたのは良かったと思う。
吉:快晴で道迷いしなかったら、名前変更してなかったかもですね。
・トレイルランでも
西:ハンディライトの用途はいろいろ使えて、防災でもどんな状況でもやっぱり明かりがあると安心やし、大袈裟な話、明かりは「命を守る道具」やと自分は思ってる、マジで。
もちろん、トレランで使ってもらいたいと思って作ってて、今年のハセツネ(日本山岳耐久レース~長谷川恒男CUP)で優勝した川崎雄哉選手は、ハンディライトを使いたいって言うてくれて、実際その時にも使ってくれてた。すごく良いですって言ってくれたから作って良かったなとマジで思った。
吉:オブラートに包んで言うと「ハセツネ優勝モデル」ですね(笑)
西:遠回しに言うと、そういうことになるな(笑)
西:これ持って勝負してくれるくらいのギアって胸張って言えるし、ヘッドランプでも見えるけど、自分の見たい方向をより遠くまで見ようとする時に使えるギアかな。
吉:僕は正直、走りながら何度かハンディライトを試した時、腕を振ると光が動くから、どうしても酔ってしまうって西岡さんにフィードバックしてたんです。けど「Nordisk Mountain Trail in INABE」にゲストランナーとして来てた川崎君と会った時に聞いたんですよ。どうやって持って走るんですかって。そしたら、ライトを持ってる方の手は腰の辺りで固定して、方向を調整しつつ照らしてると。確かにその走り方なら揺れへんし使えるなって思いました。そこで初めて使い方が分かりました。
萩:昔は「OSJ ONTAKE100」走るならハンディライトっていうのはよく聞きましたよね。
吉:ありましたね。使った覚えあるけど、腰のライトがまだ普及してない時代ですかね。やっぱりガレてるとこ走るからかな。
萩:足元をしっかり照らしたいから持って走りました。
吉:あと、先月観たトモさん(井原知一選手)のドキュメンタリー映画「メインクエスト」でも、道を外してしまうのは夜だったし、夜に進むのって圧倒的に難しさがありますよね。そういう時に遠くまで明るく照らせるライトがあると、迷いやすいところで使えますよね。コースマーキングのしっかりしたトレイルランのレースとはまた違いますけど。ロゲイニングとかオリエンテーリングとか。「OMM(オリジナルマウンテンマラソン)」は夜走らないですよね(笑)
西:アドベンチャーレースみたいな難易度が上がる夜の地図読みでは使えるはずやし、ファストパッキングや縦走登山には絶対重宝するし。
吉:無泊とか夜間行動する時とか。
萩:夜動くつもりが無くても、陽が落ちてしまって動かないといけない時、不明瞭なルート探す時にあると安心感ありますね。本気で迷った時には欲しいです。
西:そういえば、先月さっきも話に出た川崎君をモデルに撮影をしてたんやけど、移動中に滑落しかけて(汗)。
萩:え?!
西:自分が先頭、後ろにヨッシー、その後ろに川崎君の順で並んで歩いてたんやけど、自分が浮石に足を置いてしまって。左手には重たいレンズのついたカメラを持ってたから、バランスを崩して左側の谷へ落ちそうになったんよ。
萩:こわっ!
西:背中のザックの中に入ってたレンズも崖の下にコロコロと落ちてしまって。状況がスローモーションになって、崖に落ちていきそうだなと思いながら、伸ばした手をヨッシーが掴んでくれて。「ファイトー!」と言うと「イッパーッツ!」って、声掛け合う余裕は無かったんやけど(笑)、助けてもらって命拾いしました。
吉:落としたレンズはモデルの川崎君が崖を下りて拾いに行ってくれました。
萩:それ、穂高じゃなくて良かったですね(笑)
西:ほんまやね。自分が「ひっくり返る」こともあるから、山は気を付けなアカンね(笑)
今回はライトメーカーとしての矜持を感じるハンディライト「ルートファインダー」についておしえてもらいました。走る時も立ち止まる時も、山をより深く楽しむ場面で活躍しそうなアイテムです。
何年も前のことですが、高島トレイルで本気でロストして心細かった時、このライトが欲しかったです。命を守る道具、ザックに入れておきたいですね。
ではまた、次回をお楽しみに。
文・構成/萩原 健