第34回:おしえて!マイルスト~ン「山の上にも寄せる波」
2025/10/25 UP | POSTED BY milestone
この連載は、milestoneについてのアレコレを、三人(西岡・吉田・ハルカ)に(#水曜ぶどう坂練 で出会った)ライターの萩原が聞いて深堀りする、架空のポッドキャスト番組です。
朝晩の冷えた空気に秋の気配を感じる今日この頃。走るにはぴったりの季節になってきました。どうやら、これからの時期にちょうどいいアイテムが出るようです。
・革新的な組み合わせ
萩原(以下、萩):さて、今月は何についておしえてもらえるのでしょうか?
西岡(以下、西):こちら、Heatwave Titanium Hoodyと Pantsでございます!
萩:中綿入りのアウターってことでいいですかね。化繊ダウンと言った方がいいんですかね?
吉田(以下、吉):化繊ダウンは最近言わないかも(笑)ひと昔前は確かにそうって言ってました。中綿アウターで良いと思います。
大森(以下、遥):中綿って伝わります?
西:中綿じゃわからんわ。
吉:ほな、ぬくいもんです(笑)
萩:では、ダウンと中綿の違いからおしえてください。
吉:まず、ダウンはガチョウなんかの羽毛ですよね。ダウンが温かいのは、羽毛の間に沢山空気を含むことができるからなんです。天然のダウンの温かさを目指して、ポリエステルの綿で空気の層を作ったものが、いわゆる中綿です。
吉:最近では中綿素材にもいろいろ出てきてます。シンサレートやサーモライトとか。今回採用したのがClimashield® APEXというものです。こんなシート状の綿です。
萩:昔、学校の保健室で見た気がします。
遥:それは天然の医療用脱脂綿ですね(笑)
吉:このクライマシールドの綿にめちゃくちゃ惚れ込んでたんです。昔海外のアウターを個人輸入したことがあったんですけど、他の中綿と比べて全然ぬくさが違ったんです。すごく軽いし。
萩:確かに着てた! 化繊の中綿って、羽毛のダウンと比べて重いし、かさ張るしそこまで温かくないイメージでしたけど、ヨッシーのを着させてもらったらめっちゃ軽かったのを覚えてる。
吉:そこから調べ始めて、milestoneに入社した直後に、西岡さんに「これで防寒着つくりましょう」って言って、この素材を扱っていることろを探し当ててサンプルを作ったんです。ただ、そのタイミングでは、ブランド綿を使っただけのアウターでは「ちょっと弱いなって」西岡さんも言うててお蔵入りになったんですよ。
西:やっぱり、うちなりの何か目に見える工夫がないと難しいなと思ったんよね。ただ、僕はサンプルを冬の間ずっと着てて(笑)
吉:西岡さんは製品化するのは無理ってお蔵にしといて「ヨッシー、これめっちゃええから早く製品化したいわ」って(笑)なんか、トンチみたいな難しい宿題やなと思ってたんです。
遥:milestoneがやる意味というか、独自性がないと、ってことですよね。
吉:3年の時を経て、新しい出会いがあったんです。銀色のエマージェンシーシートが熱を反射して体を温めるように、チタンが体から出る熱を反射してくれるっていう技術が出てきたんです。僕は他社のジャケットを持ってたんですけど、これをクライマシールドと組み合わせたら革新的なものができるかもしれへんって思ったんです。
西:なんかひねりが欲しいと思ってたところに、この「チタンスパッタリング」という新技術を組み合わせれば、いけるやん!って。
吉:色々と調べて訊いたらその生地を扱っているところがわかって、サンプルを作ってはトライ&エラーを繰り返し、形になるまで三年掛かりでしたね。
萩:チタンスパッタリングって、けっこう最近の技術ですよね。
吉:そうですね。チタンスパッタリングと中綿を組み合わせてるところはあります。Climashield® APEXを使って中綿アウターを作ってるところもあります。けど、チタンスパッタリングとクClimashield® APEXを組み合わせてるのは、今のところウチだけです。
萩:そのチタンって剥がれたりしないんですか?
吉:それは僕も気になったんで、生地メーカーに第三者機関でテストしてもらいました。剥離や摩擦堅牢度の試験に掛けてもらったら、普通は何級ですって結果が出るんですけど「今回は級数が出ませんでした」と。弱いってことかと思ったら、どんなに擦っても剝がれなかったから、級数が出ませんでしたという結果でした。
遥:接着材でくっついてるわけではなく、化学的にくっついてるから、剥がれないってことのようです。
吉:僕らもまだひと冬通して着続けて試してはないんですけど、実際に剥がれないのを確かめたいと思ってます。
西:素材はそろったから、あとはそれをどう調理するかなんやけど。
遥:和食にするか、洋食にするか、はたまた中華にするか。
西:どう料理するか、そこも難しくて。
吉:レインウェア「UP-SWING Rain Hoody」 を作った時もトレラン用として作ったんです。だからこそ、サイドポケットもないし、用途を決めることで振り切って作れたんです。
萩:何でも使える用だと、中途半端になるってことですよね。
吉:中綿入りの上下アウターをトレランで着て走るシーンってないじゃないですか(笑)専門店さんにも意見聞いたりしながら、一度、雪山登山用にすることも考えたりしたんです。紆余曲折あったんですけど、原点に立ち返って、これはトレランの時に使うものでありたいなと。だから、何用ですかと聞かれたら、トレランレースのスタートする前やゴールした後であったり、エイドでサポートする人やされる時に使って欲しいなと思ってます。でも、もちろん登山やハイク、他のアクティビティでもめちゃくちゃ使えますよというアイテムです。
・マクラブル
遥:他にも気の利いた特長が沢山あるんです。ダブルジッパーで体温調節がしやすいし、袖にはサムホール、ポケット裏は手の甲を温めるトリコット素材になってます。
遥:しかもそのポケットが裏返ってパッカブルになります。そして肌触りの良い枕にもなります。
西:マクラブルやね。
萩:左ポケットだけがパッカブルってどういうことですか?
吉:裏表ジッパーが左にだけ付いてるんです。
萩:なるほど、そういうことね(笑)ジッパーね。
遥:裾にはドローコードが付いていて、冷気が入ってこないように絞れたり。
西:その形状もこだわった。コードが外に出てくるのが嫌で。もし藪なんかに入った時に引っ掛かるのは避けたいから、見えないように内側に収まるようにしました。
遥:パンツもこだわってます。裾のジッパーの位置も真裏でもなく真横でもなくちょっとずらしてますよね。そのジッパーを靴を脱がずに穿けるように割と長めにしています。最初、腰から裾までジッパーを付けてましたよね。
吉:アイゼン履いたままパンツが脱げるように。でも雪山専用なら必要だけど、そこまではいいかなってことで却下になりました。あと、外側のお尻回りの生地は、岩の上に座ったりしたときに摩擦に弱いと穴があいて綿が出てしまうので、擦れに強いものにしています。
遥:ダウンパンツでいちばん穴が開きやすいのは、お尻まわりなので。
吉:サイドポケットも付けてますし。上着と同じようにポケットの中は同じくトリコット素材にしてます。腰にはスマホ用ポケットを付けてて、ここがパッカブルになります。
遥:あとウエストの後ろ側も高めにしてますよね。
吉:防寒着は何かの上に穿いたりするし、お尻が出ると寒いので、パターンでその辺は調整して前後差をつけてます。
西:このチタンスパッタリングの素材をどこに配置するかって問題もあって。フードはやめとこうかって話もあったやん?
吉:ありましたね。テカテカな宇宙服みたいなのが見えると街中で着にくいんちゃうかという意見もあったんやけど。でも逆に、このアイテムのいちばんの特長なんやから、あえて見せていこうと。独自性をしっかり主張していこうって。
遥:腕は肘の先までチタンスパッタリング加工しているけれど、手首側だけ省かせてもらってますよね。
吉:体のコアの部分を温めたいので。実はチタンスパッタリングの生地価格がめちゃくちゃ高いんですよ。
遥:パンツの方は、チタンの部分は腰から太ももの中間くらいまでに限定しています。
・三次元ゆえの難しさ
西:細かい話やけど、パンツのポケットでだいぶ悩んで。
吉:中綿を表地に抱かせるか、裏地に抱かせるかですね。
西:最初は裏地に抱かせて上がってきてたけど、ポケットがペラペラなのが寒いんちゃうかと思って。上着と同じように表地に綿を抱かせるように変更したら、パツパツになってしまったんよね。それで元に戻して、その代わりニット素材を足しました。
萩:上着と同じじゃ駄目だったんですね。
西:上着の方は前に綿が入ってて違和感ないのに、パンツを同じようにしたいと思ったら様子がおかしかった(笑)ほんまこれは勉強になった。
吉:シルエットもやりかえましたよね。
西:パンツのファーストサンプルは太めやったから、ちょっと絞った方がええんちゃうかと言うてたら、えらい細身で上がってきて(笑)トレイルランナーはふくらはぎが太いから入らへんよって。そこから戻して。
吉:革パンみたいになって(笑)
萩:完成形のパンツのシルエットはきれいですね。これまでダウンパンツが必要だと思ったことはあったけど、服として欲しいと思えるものに出会ってなかったんで持ってないんですよ。なんかモコモコしてるの多いじゃないですか(笑)
吉:ミシュランマンみたいになりますよね(笑)
萩:防寒のための道具だから、暖かければそれで良いんでしょうけど、どうも買う気になれなかったんですよね。そういう意味で、パンツとしていいシルエットだなと思いました。
西:あと、今回は特にフードの形に苦戦したよね。
遥:なんか頭の形が四角くなっちゃって丸みを出すようにしたり。
西:フードをかぶってゴムでキュッと絞った時の頭の形が美しくなくて。最後まで調整したな。
吉:最初は前で絞るようにしてたんです。そしたら、どうしても紐が出ちゃうんですよね。
遥:ナマズのヒゲみたいなのが邪魔で。それに絞ると、顔が出てる部分が小さくなるのはいいけど、目が隠れて前が見えなくなったり。
吉:なんとか解消したいなと思って後ろで絞るようにしたんですけど、そしたら、顔の横に空間ができてしまって、寒い空気が入ってしまう。結局辿り着いたのが、額のラインからまっすぐ後ろではなくて、少し顔に沿わしてから後ろで絞る構造にしました。
西:見た目に違和感が出ないようにするのが、かなり難しかった。
萩:フードって丸いから難しそうですけど、中綿の厚みがある分だけレインのフードなんかよりもさらに難易度高いそうですね。
西:プロトタイプでもなんでも、やっぱり形にして立体で見ると話が早い。フードの形はほんま苦労したから、11月頭に発売したいって目標があったけど、途中、今年無理かもって思ったもんな。
吉:辛抱強く取引先さんも付き合ってくれて。営業担当の方が自分で縫って送ってきてくれたり。仕様書の修正履歴がだいぶ長くなってました。でも実際これまでも、そういう何度も修正を重ねたアイテムは、結果的にお客さんの評価も高いんです。
・「熱」を伝える
西:milestoneのアパレルアイテムには、音楽にまつわる名前を付けてるというのは毎度言うてることなんやけど。
吉:聞いただけで、あったかそ〜って思えるようなアーティスト名とかありません?って西岡さんに尋ねたんです。
西:パッと出てきたのは、ヒートウェーブっていう好きなアーティスト。1970年代中盤から80年代前半のグループでめちゃくちゃいいバンド。
吉:それええですやん! って。
西:即決やったな。ヒートウェーブフーディで行こうかと思ったんやけど、吉田さんがチタンっていうことを知ってもらいたいから、ヒートウェーブ”TI”フーディにしましょうと。TIだけじゃ分かりにくいから、それなら略さずチタニウムって入れようやって。Heatwave Titanium Hoodyと Heatwave Titanium Pantsになりました。
吉:ちょっと長いけど。
西:長くても商品の特長を名前に入れて知ってもらうのも大事かなと。じゃあ、聴く?
遥:おしゃれ~!これはなんというジャンルですか?
西:AORというか欧州発の多国籍ファンクバンドやね。音源は下記からどうぞ
吉:こんな感じに温かさの波が伝わって、アウトドアライフが豊かになればいいね。
西:価格の話をすると、世の中には5万も6万もするアウターがあるけど、自分がユーザーの立場で考えた時に、税込み4万円までなら買うかなって気持ちがあって、なんとかそこに収まるようにしました。パンツも3万円以下に抑えました。新たなジャンルの商品を作るのは恐いし、3月以降は売れへんシーズナルアイテムやし、milestone史上いちばん高価なアイテムやから。社運が掛かってます。それでもやってみたかったし。何事にもチャレンジしていきたい。
萩:だから11月頭にどうしても発売したかったわけですね。プロモーションビデオも撮ったんでしたっけ?
吉:8月に北海道旅行のついでにね。
遥:釣りのついでに。
西:本当は九州で撮ろうとしてたけど、暑すぎるから急遽、北海道になって。北海道も暑かったけど(笑)
萩:遥ちゃんは、今回途中から関わった感じですか?
遥:いろいろ意見を言わせてもらって、そのアイテムを実際に7月の北アルプスでの社員研修で使えたのは感慨深かったですね。
西:下界は36度とか37度の頃で。山では雨が降って寒かったから大活躍したね。
遥:黒部五郎小屋でテン泊したんですけど、私は寝袋を持って行かず、寝袋代わりにこれを着て、シュラフカバーに入ったんですけど、寒さを感じず、よく寝られました。テン場でも着てましたし。
吉:夏用シュラフ代のわりになりますね。発売前に実際に寒い場所で試せて「ぬくいな」って確認出来て良かったです。気温は10度くらいだったかな。
遥:今の季節だともう寒いので、気温に合わせて、適したレイヤリングが必要ですけど。3人が3色それぞれ着てましたね。
西:先月言ってたスリーカラーズセオリーですよ(笑)黒は鉄板でしょ。クロームブラック。白っぽいグレーはミストグレー。もう一色は山吹色をアンバーゴールドと名付けました。
吉:ミストグレーが専門店さんでは人気ですね。
西:僕はパンツも3色やりたいって言ったんやけど、吉田さんに止められて。
吉:アンバーゴールドを上下揃えて着る人おらんでしょ?
西:揃えんでもコーディネートしたらええやん。上は黒、下はゴールドとか。
吉:そんなん阪神ファンくらいしかおらんでしょ。
西:阪神ファンをディスってるやろ。
吉:ディスってない(笑)
西:結果、パンツはブラック1色です。そろそろ、今月はこの辺で。さよなら。
吉:さよなら。
遥・萩:さよなら。
今回は新しい技術を取り入れた防寒中綿アウターを紹介してもらいました。山だけでなく、街でも違和感なく使えそうなデザインが魅力的です。中綿の厚みを考慮しながら立体にするという新しい挑戦には、難しさがありながらも革新的なものを生み出そうとする、モノづくりへの情熱がありました。その「熱」は伝わりましたでしょうか。
冬場の荷物は何かと嵩張りがち。マラソンでゴールへの荷物預けも、駅のコインロッカーに荷物を詰め込む時も、コンパクトになるのは有難いです。
寒さが厳しくなる頃には、雪山ハイキングで中綿とチタンの組み合わせの威力を試してみたいですね。
それではまた来月。
文・構成/萩原 健















